
白雪姫
むかし、むかし。ある冬の日のことです。
窓辺で針仕事をしていたお后様が、うっかり指を突き刺してしまいました。
真っ赤な血がにじんで、降り積もった雪の上に落ちました。
そのとき、真っ黒なカラスがカァーとひと泣きして、中庭の木にとまりました。
お后様は、思いました。
「ああ、かわいい女の子が欲しい。
この雪のように色が白くて、血のように頬が赤くて、
カラスのように黒いつやつやした髪の毛の子がいたら、どんなにいいかしら。」
ほどなく、お后様は女の子を産みました。
願ったとおり、色が白くて、赤い頬をして、つやつやした黒い髪の毛の子供でした。
その子は、白雪姫と呼ばれて、王様、お后様を始め、お城の誰からもかわいがられました。
ところが、まもなくお后様が亡くなりました。
王様は、やがて新しいお后様をむかえました。
そのお后は大変美しい人で、それをまた自慢にしていました。
お后は、朝に晩に、魔法の鏡に向かって、たずねるのでした。
鏡よ、鏡、金の鏡よ。
この国、あの国、見渡して、
一番美しいのは、だあれ。
そして、鏡に映った自分の姿を見ると、満足してうなずくのでした。
しばらくたったある日のこと。
お后がいつものように鏡にたずねると、鏡は白雪姫を映し出しました。
それからというもの、お后は白雪姫につらく当たるようになりました。
そしてとうとう、
「この子を森に連れて行って、殺しておしまい。
しるしに、心臓を持って帰るのです。」
と、狩人に命じました。
狩人は森に行ったものの、とても白雪姫を殺す気にはなれませんでした。
「森の奥にお逃げないさい。」
と、白雪姫を逃がすと、近くにいたイノシシの子を殺して、その心臓を持って帰りました。
お后は、イノシシの心臓を白雪姫のものだと思い、料理して食べてしまいました。
白雪姫は、森を歩くうちに、小さな家にたどり着きました。
中に入ると、小さなテーブルがあって、パンをのせた7枚のお皿と、
ミルクの入った7つのカップがのっていました。
姫は、おなかがぺこぺこだったので、7枚のお皿から一口ずつパンを食べ、
7つのカップから一口ずつミルクを飲みました。
それから、7つのベッドを次々試してみて、最後の一番大きなベッドに眠りました。
日が暮れると、7人の小人が山から帰ってきました。
小人たちはテーブルをのぞくと、口々に言いました。
「誰か、おいらのパンをかじったぞ。」
「誰か、おいらのミルクを飲んだぞ。」
それから、ベッドの方へ行くと、
「誰か、おいらのベッドを使ったぞ。」
そして、7番目のベッドに白雪姫が眠っているのを見つけると、
小人たちは驚きました。
姫から話を聞いた小人たちは、
「ここで、おいら達と一緒に暮らそう。」
と言いました。
そのころお城では、お后が鏡の前に立っていました。
鏡よ、鏡、金の鏡よ。
この国、あの国、見渡して、
一番美しいのは、だあれ。
ところが、鏡に映ったのは、死んだはずの白雪姫でした。
「もう、人任せにはできないわ。」
お后は、さっそく物売りの格好をすると、7つの山を越えて、
7人の小人の家へと急ぎました。
「娘さん、ほら、このくしなんだどうだい。あんたのその黒い髪にきっとお似合いだよ。」
「まあ、きれいなくしだこと。」
白雪姫は戸を開けて、物売りを家に招き入れました。
「さあ、さ、そのつやつやした黒い髪をといてあげようね。」
そう言いながら、物売りは毒をぬったくしを姫の頭にぐいと突き刺しました。
日が暮れると、小人たちが山の仕事場から帰ってきました。
そして、床に倒れていた白雪姫を見て驚きました。
小人たちは揺すったり、たたいたりしましたが、姫は死んだように動きません。
けれども、頭に刺さったくしを抜いてやると、姫はふっと息を吹き返しました。
「これは、きっとお城のお后の仕業だぞ。」
「今度は誰かやってきても、戸を開けちゃいけないよ。」
小人たちは、かわるがわる白雪姫に言って聞かせました。
お后はお城に帰ると、さっそく鏡の前に立ちました。
ところが、鏡に映ったのは、やっぱり小人の家にいる白雪姫でした。
お后は悔しがり、おばあさんに化けると、もう一度7人の小人の家にやってきました。
「ちょっと休ませておくれ。水を一杯だけ・・・。」
つらそうに言って、家に入れてもらうと、
「優しい娘さんだねぇ。お礼に、その胸のひもをきれいに結び変えてあげようね。」
そう言うと、白雪姫のひもをぐいと力一杯締め付けました。
小人たちが家に帰ると、また白雪姫が倒れていました。
そこで、胸のひもを切ると、姫は息を吹き返したのです。
小人たちは白雪姫に、
「もう、誰が来ても、絶対に戸を開けちゃいけないよ。」
と言いました。
お后は、白雪姫がまだ生きているのを知ると、おいしそうな毒リンゴを作りました。
そして、農家のおかみさんに化けて、小人の家をたずねました。
「娘さん、おいしいリンゴはいかが。」
けれど、白雪姫は今度こそ決して戸を開けようとはしませんでした。
そこで、お后は窓辺にリンゴをおくと、そっと様子をうかがっていました。
白雪姫はしばらくリンゴを眺めていましたが、あんまりおいしそうなので、
つい手にとって、一口だけかじってみました。
でも、そのひとかけらで、姫は倒れてしまったのです。
小人たちは、何とか姫を生き返らせようとしましたが、何をしても無駄でした。
小人たちはおいおい泣きました。
土に埋めてしまうのが切なくて、白雪姫をガラスの棺に入れて、
昼も夜も交替で番をしました。
一年たっても、白雪姫は眠っているかのように、そのままの美しさでした。
ある時、隣の国の王子様が森を通りかかって、一目で白雪姫を好きになりました。
王子様は、どうしても姫を自分の側に置いておきたくて、小人たちから姫を譲り受けました。
途中、棺を担いだ家来がつまずいて、棺がぐらりと揺れました。
するとその拍子に、のどに詰まっていた毒リンゴのかけらが飛び出して、姫は息を吹き返したのです。
「おお、白雪姫!」
王子様は、大喜びで白雪姫を抱き上げました。
お城では、さっそく華やかな婚礼が行われました。
たくさんの王様やお后様、貴族たちがきれいに着飾って、ぞくぞくお祝いに駆けつけました。
テーブルの上には、食べきれないほどのごちそうや、珍しいお酒が並びました。
また、国中の町や村でも、ごちそうとお酒が振る舞われ、夜までお祝いのダンスが続きました。
王子様と白雪姫は、それからずっと幸せに暮らしました。
あのお后はどうなったか、ですって?
白雪姫の婚礼に駆けつけたお后には、真っ赤に焼けた靴が用意してありました。
お后はそれを履いて、死ぬまで踊り続けなければなりませんでした。
『白雪姫と七人の小人たち』 八木田宜子/訳 富山房
『白雪姫』 高津美保子/文 ほるぷ出版
『白雪姫』 アンジェラ・バレット/絵 ブックローン出版
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